オリンピックの食材調達の要件となって少しは知名度が上がったGAPですが、まだまだ「取組む目的」が明確化されておらず、手間の増加や直接的な単価への反映といった議論に終始してしまっています。
私どもでは、生産者や生産者団体の皆様と納得がいくまで必要性について話し合い、導入のメリットを明確にした上で、取組み・認証取得の支援をさせていただいております。
「孫子」は中国で2500年も前に書かれた兵法書ですが、その中でこのような名言を残しています。一方20世紀の西洋では、SWOT分析という経営戦略検討ツールが開発されました。どちらも共通するのは、敵(お客様)とともに自分自身の強みや弱みを分析することが大切としていることです。
ここでは、GAPに取組む目的・メリットについて整理していきます。
農業は、構成する経営体が小さく、収入が天候や相場に左右される等、他産業に比べてリスクを多く抱えているようです。例えば、近年の温暖化が原因とも言われる台風被害や大雨、少雨、農機や農産物の盗難、農薬使用に関連する健康被害や残留農薬違反による風評被害、高齢化の影響もあり、今や建設業より死亡率が高くなってしまった労働災害…
GAPの取組みの第1の目的は、農場の内外に潜むリスクを洗い出し、それに対する「備え」(リスクヘッジ)をすることです。
日頃、植物を育てている生産者の方には釈迦に説法で恐縮ですが、たくさん実らせるためには、健全な根張りが重要です。「備え」は目に見えない部分で後回しにされがちですが、大地にしっかり根を張らせることで、強風でも倒れない立派な樹を育てていただきたいものです。
GAPは労働安全、食品安全、周辺配慮の3つの側面から「己」の分析を行います。
よく、「売る」「ブランド化した」という言葉を目にしますが、私はどちらも現実にそぐわない表現だなあと感じます。今はモノ余りの時代、売買の決定権を持っているのは買う側ですから、「買う」「買っていただく」という現象しか起きていません。また「ブランド」を決める(感じる)のはお客様の側ですから、売る側がブランド化したと言うのには違和感を覚えます。
ところでこの「ブランド化」は、一朝一夕に確立できるものではありません。何度も何度も、お客様の期待に応えて信頼を得た結果がブランドなのではないでしょうか。
それでは、お客様はどんなことを「期待」しているのでしょうか。農産物流通においては4定(定時・定量・定品質・定価格)が指標となることがあります。また、食品に求めらる機能として栄養性・嗜好性・作用性(狭義の機能性)が挙げられることがあります。フードチェーンの源流として、生産者の皆様は、日々高品質で安全でおいしい農産物の生産・出荷を目指していることと思われます。
以前、規模は大きくないが伝統がある食品メーカーを訪問した時、社長が社員を怒鳴りつけていました。機械の故障で朝から機嫌が悪かったそうですが、私も「招かざる客」という対応を受けたのは今でも忘れられません。せっかくとてもおいしい製品を作っているんですが、それ以来私はその会社の商品を一切買わないことに決めています。そうでなくても、フードテロやバイトテロが頻発する時代です。悪意を持った社員が何か混入するんじゃないか…なんて心配になります。
この例からもわかるように、お客様は、食品としての品質ばかりではなく、会社内の状況(労働安全や労務管理)や周囲の住民や環境との向き合い方の適正性も求めています。農場に突然お客様がお越しになっても、胸を張って農場や作業を見せることができますか?
GAPは、ガラス張りの農場運営をすることで、お客様の信頼を得て「ブランド」と認めてもらうための基礎となります。
現代は6割以上の人がスマホを持ち、SNSで自分の意見や出来事を発信する、いわば「1億総主役時代」です。生産者の方の中でもSNSを活用して上手にアピールする例が多くなってきました。
そこでもう1ランクレベルアップするためにお勧めしたいのが、「クレーム窓口」の設置です。このようにいうと、「クレーマーが電話してきて怖そう!」としり込みしてしまうかもしれません。確かにモンスタークレーマーやハードクレーマーと呼ばれる悪質なクレーマーもまれにいます(これについては、あらかじめ準備をしておく必要があります)が、「普通の」クレーマーは、わざわざ電話代を払ってミスを指摘してくれるわけですから、「また買ってくれることを前提に」クレームをつけている方が多いのではないでしょうか。「普通の」クレーマーに誠意をもって対応することで、「雨降って地固まる」となり、クレーマー転じてロイヤルティ(忠誠心)の高いファンとなす、という効果が期待されます。
忘れてならないのは、お客様も「アピール」したい、しゃべる順番を待っている、ということです。
さらに、人は周りの人が知らない「お得情報」を入手すると、ついつい周りの人に「自慢」したくなります。このようにしてウェブ上で情報が一気に広がることを「バズる」というそうですが、この原理を商品の宣伝に利用したのが「バズマーケティング(口コミマーケティング)」です。ロイヤルティの高いお客様に、ついついまわりにしゃべりたくなる情報を提供できるかも大切なテクニックです。
市場価格に左右されない新しい流通の形も出てきています。情報分野の急速な発達は1人の生産者と1人と消費者をつなぐことが可能な時代をもらたしました。これからの農業の成功の鍵は、いかにお客様とつながることができるかにかかっていると私たちは考えます。
GAPは、ガラス張りの農場運営をすることで、お客様とコミュニケーションするための「身だしなみ」として大切な役割を果たします。
2008年 JGAP指導員資格取得
2017年 JGAP上級指導員資格取得
2019年 ASIAGAP上級指導員資格取得
指導件数 JGAP22件 うち認証取得18件 団体認証1件 (2021年3月31日現在)
ASIAGAP1件 うち認証取得1件 (2021年3月31日現在)
2010年 JGAP審査員資格取得
2017年 ASIAGAP審査員資格取得
2019年 ASIAGAP上級審査員資格取得(5月予定)
審査件数 251件 (JGAP/ASIAGAP合計、農場軒数、2021年3月31日現在)
福島県の南郷トマト生産組合様のGAPへの取組みがYOUTUBEで公開されています。その時ちょうど、私がリーダーとして審査させていただいておりました。
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